強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
その晩、午後の十時を過ぎた辺りから、スマホに電話がひっきりなしに入り始める。

もちろんその相手は八雲さんで、マンションにいない私を探してのものだと思うと胸が強く痛んだ。メールも次から次へと来ていて、あっという間に百件を超えている。
 
何を今更という思いと、まだ呆れめきれない気持ちがひしめき合う。電話に出たい──そう思う自分に腹が立つのに、反面声が聞きたいと思ってしまう。
 
まだ全然、心の整理がついていない。今日の今日なんだから、当たり前といえば当たり前なんだろうけれど。考えなきゃいけないことが山積みで、心が押しつぶされそうだ。
 
ふと、まだ実感のないお腹に触れてみる。ここに八雲さんとの間に授かった子どもがいると思うと、不思議な気持ちが溢れ出す。

だって八雲さんは私が初めて愛した人で、この先彼以上の人は現れないと今でも思っている。

大好きで大好きで、騙されていたとわかっても大好きで。もう一緒になれることはないけれど、私はずっと彼のことを想って、お腹の中の子と生きていきたい。

愛してます、八雲さん。そして、さようなら──。

心の中でそうつぶやくと、そっと目を閉じた。


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