強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
結婚はしてなくても、せめてこれが好きな人だったら。こんな思いはしなくて済んだのに……。
大きなため息とともに、もう一筋涙が頬をつたう。
「俺の腕の中にいるのが、泣くほど嬉しいのか?」
目の前の形の良い唇が、意味のわからない言葉を紡ぐ。そんなわけあるかっ!と言い返してやりたいのに、彼の綺麗な指先が頬に触れ優しく涙を掬い取ると、私から敵対心を奪っていった。
「……なんで私が、ここにいるのよ」
上目遣いに見上げると、唇を尖らせる。
「おいおい。バーで酔いつぶれたお前を、ここまでおぶってきてやったのは俺だぞ。感謝されることはあっても、文句言われる筋合いはない」
「そ、そうだったんだ。じゃあ、その件に関してはお礼を言う、ありがとう。でもなんで、こんなことになってるの? 私は……私は……」
乙女の純潔を奪われた怒りと悲しみが、ワナワナと身体を震わせる。