強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
父のことが嫌いなわけではない。何不自由なく大切に育ててもらったことには感謝もしているし、人生の節目である還暦を祝うのは娘として当然のことだと思っている。
でもいかんせん顔を合わせる度に、『いつまで他の会社で働いてるんだ。金が必要なら小遣いを増やしてやってもいい。どうせ働くなら四星で働けばいいじゃないか』と言われてしまい不快な気持ちを抱いてしまう。
そんな自分が嫌で、一緒に暮らしていてもなるべく顔を合わさないようにやり過ごしていた。
他人から見れば、お嬢様のわがままかもしれない。けれど私はこの先、父が敷いたレールの上を歩みたくないと思っている。いつまでも干渉しないで、ちゃんと自立したひとりの女性として扱ってほしい。
そう思って自分で会社を探し面接を受け、やっとの思いで仕事を見つけたというのに……。
足を止め、窓の外の景色に目を向けた。日が暮れかけた空の色が綺麗で、ため息が漏れる。いや、憂鬱のため息だろうか。
「どっちでも、いいんだけどね……」
ひとりメランコリックに呟くと気持ちを切り替え、今日の主役が待つ控室へ向かった。