強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
ファーストキスと憶測
副社長が住んでいたのは、都心に近い超高級マンション。
もしかしたら億ション?と思うほどの豪華なエントランスを抜け、副社長のあとについて駐車場に向かう。そこにはズラリと高級車が並んでいて、その中でもひときわ輝くの車がカチャッと音を立てた。
緊張の面持ちで車に乗るとウッディな香りが鼻をかすめ、ホッと息をつく。
「四星百貨店のお嬢様なら、家には高級車が何台もあるんだろう。出勤のときは、お抱え運転手にでも送ってもらってるのか?」
まただ──。
私はこの手の偏見には、幼い頃から言われ続けていて慣れている。慣れてはいるけれど、やっぱり直接言われるのは気持ちのいいものじゃない。
四星百貨店の社長の娘なんかに、生まれてこなければよかった──。
何度そう思ったことか。でも生まれてきた事実は今更変えられない。だったら自分が変わるしかないと、両親に内緒で就職先を決めた。
もう誰の力も借りない、自分のことは自分でやる、そう思ってバスと電車を乗り継いで出勤している。