強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
なのに、やっぱり私が四星百貨店の娘だと知れば、お嬢様扱いされてしまう。悔しいけれど、仕方ないけれど、同じ境遇の副社長には言われたくなかった。
仕方なく濃いブルーのスポーツカーの助手席に乗り込むと、下唇を噛んで両手をグッと握る。いつしかこうやって、悲しみや悔しさを我慢する術を身につけていた。
「どうした?」
うつむき加減にしていた顔を、副社長が覗き込む。慌てて副社長から離れ、顔を無理やり笑顔に戻した。
「どうもしません。あ、まずは副社長の質問に答えないといけないですよね。出勤はバスと電車を使っています。うちは交通費全額支給なので、本当に助かります」
聞かれたことに答えただけ。当たり障りなく言ったつもりだったのに、副社長はなぜか怒っている様子で。
面倒くさい人──。
心の中でつぶやいて、当の本人には笑顔を送る。
「副社長?」
「俺の名前は副社長じゃない。これからは八雲と呼ぶこと。それと、言いたいことがあるなら我慢せずに言え。下唇から血が出てるぞ」