強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
「嘘……」

左手で唇を拭うと、手の甲に血がにじむ。気づかぬうちに、強く噛んでいたみたいだ。

「ほら、早くこれで拭け」
 
ポケットからハンカチを取り出した副社長は、それを私に手渡した。見れば誰でも知っている高級ブランドのハンカチで、慌ててそれを突き返す。

「こんな高そうなハンカチ使えません」

「高かろうがそうでなかろうが、ハンカチは使うためにあるんだ。早く使え」

「それでも結構です」

「強情なやつだな。だったら俺が拭いてやる」
 
副社長は私の手からハンカチを奪い取り、グッと顔を近づける。

突然のことに驚いて硬直している私の口にハンカチを当て、優しい手付きで唇を拭い始めた。もう片方の手は逃げられないように、私の頬を優しく包み込んでいる。
 
な、なんなのよこれ。触れられている頬が、すごく熱い……。
 
くすぐったいような痺れるような、初めて経験する不思議な感覚に心臓の鼓動は速まるばかり。間近にある副社長の目に捕らわれて、一ミリも離すことがない。


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