強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
「おお、芳奈! 待っていたよ。お前の顔を見るのは何週間ぶりだ?」
そういいながら、抱きしめてくれと言わんばかりに大きく腕を広げる父を見て苦笑を漏らす。
何週間ぶりって、まだたったの一週間なんですけど……。
それでも還暦の父を喜ばせたくて、しかたなく近寄ると大きな体を抱きしめた。
「お父さん。六十歳のお誕生日、おめでとう」
「ありがとう、芳奈。お前がこうやって抱きしめてくれるのが、最高のプレゼントだ」
「何言ってるの。ほんと、お父さんってオーバーなんだから。ちゃんとプレゼントも用意してるのよ。うちに帰ってから渡すわね」
頬にチュッと口付けて、父の横に腰を下ろす。
「あなた、芳奈はもう二十三歳よ。いつまで甘やかすおつもり?」
満足そうに微笑む父を見て、母の操(みさお)も呆れ顔だ。
「いつまでだと? そんなこと聞くまでもない、永遠だ」
永遠……。その言葉に、クラッと目眩がする。これは早いうちに、家も出たほうがいいのかもしれない。
やれやれと肩を落とし、ソファに深く座り込んだ。