強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

「頑固だな。でもわかった、じゃあそこは譲歩するとして。芳奈、これから俺の彼女としてよろしく」

「それはこっちのセリフです。しばらくの間、彼氏としてよろしくお願いします」

先に出されていた八雲さんの右手に、自分の右手を重ねる。握手を交わしホッと肩の力を抜いたのを見計らってか、彼が腕を引き私を抱き寄せた。

「な、何を急に……ぶふっ」

喋りかけた途端、頭を包むように強く抱きしめられて、彼の胸に顔が押し付けられる。

「今は恋人なんだから、こういうことにも慣れておかないと。だろ？」

「だろ？って言われても、なんかピンとこないと言うか、なんというか……」

フリをしているだけなのに、心臓がバクバクするのはどうして？　

彼の鼓動までもが聞こえちゃうほど、ピッタリくっついているからなのか。それとも、私の後ろに回されている手が背中を優しく撫でているからか。

兎にも角にも。八雲さんに抱かれているこの状態が理解不能で、こんな経験のない私は何をどうしていいのかわからない。