強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
この宙に浮いている手は、どうするべき?

上げたり下ろしたりを、わけも分からず繰り返す。やっぱりここは、八雲さんの背中に回すのが正解なのだろうか。

そろりそろりと腕を伸ばし、八雲さんの背中へと腕を動かす。途端、彼の身体が震えだし、何?と伸ばしていた腕が止まる。

「ご、ごめん、なんか芳奈が面白くて。ホント、こういうことに慣れてないんだな」

「わ、悪かったですね、慣れてなくて……」
 
今どきの二十三歳なら、恋愛経験くらい一度や二度あるのが普通なのかもしれない。でも私は世で言う“箱入り娘”というやつで。

小中学校は共学に通っていたものの、恋に興味を持ち始めた高校から短大までは女子だけの中で生活し、どこへ行くにも送迎付きだった私は自由に恋愛をすることができなかった。
 
そんな私が父に反乱を起こしたのは三年前。
 
短大を卒業後は就職せず家でのんびり過ごせばいいと言った父に従いたくなくて、勝手に就職活動をしてクリキホールディングス入社。

それを知った父に激怒されたものの、一度入社してしまえばこっちのものだと開き直り。商品企画部は思っていた以上に楽しく、やりがいのある仕事に恋をするのを忘れてしまっていた。


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