強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
そして今も、恋をするつもりはない。もちろん結婚だって。

父が決めた人と結婚なんてしたら元の木阿弥、また自由のない自分に戻る。それだけは絶対にイヤ、今までの苦労が全部水の泡になってしまう。

そんなこんなで。頑張りすぎて女らしい部分が欠如しているけれど、恋に慣れていなくても生きていける。

でも今だけ、少しの間だけ恋人を演じなければ、この先生きにくくなってしまう。

だからこれも生きていくために必要なこと──そう自分に言い聞かせ、八雲さんの背中に腕を回し入れた。

「そう。そのままギュッと俺を抱きしめて」

八雲さんに言われるがままに、彼の身体を強く抱いた。違和感なくすんなりできて、驚くばかりだ。しかもさっきまで慌ただしく音を立てていた心臓が大人しく鳴りを潜めているから、これは何効果なのと首を傾げた。
 
なんか落ち着く……。
 
ふわりと湧いた気持ちは、私の気持ちを穏やかなものにしてくれて。恋人のフリも悪くないじゃない……とか思う私は、かなり単純みたいだ。


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