強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
しばしこの時間を楽しもう──八雲さんに身を預けようとした、その時。

聞き慣れた着信音が車内に流れ、慌てて八雲さんから身体を離すとバッグからスマホを取り出す。もちろん、相手は誰かわかっている。

「八雲さん、電話に出ても?」

「もちろん。ゆっくりどうぞ」
 
そう言って笑みを見せると、八雲さんはエンジンを掛け車を発進させた。

「もしもし、お母さん? うん、何? そ、そう、わかった。気をつけて行ってきてね」
 
相変わらずそそっかしい母は、自分の用件を話し一方的に電話を切った。まあいつものことだと、苦笑が漏れる。

「電話、お母さんから? なんだって?」
 
八雲さんはハンドルを握り、前を向いたまま私に話しかける。

「父と出掛けるそうです。さっきメールしたからか、初めて黙って外泊したのにあまり心配されてないみたい」
 
二十三にもなって心配してもらいたいわけじゃないけど、こうもあっけらかんとされては拍子抜けだ。



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