強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

そっか。恋愛に慣れている八雲さんにしたら、私とのエッチなんて娯楽のひとつ。きっと私以外にも遊んでる女性が何人もいて、私はその中のひとりなんだろう。

それなのに忘れるはずないと言ってからかうなんて、人が悪いにもほどがある。
　
ちょっとショックかも……。ため息が溢れる。
　
八雲さんのことなんてなんとも思ってない、彼が何をしていたって私には関係ないのに、胸がギュッと掴まれたように痛む。

生まれて始めて感じる胸の痛みがなんなのかわからず、大きく深呼吸してなんとかその痛みを逃した。
　
でも狭い車の中、ふたりだけの空間がだんだん息苦しくなってくる。気を紛らわそうにも車の中じゃ、外に目を向けることしかできなくて。

早く車から降りなくちゃ……。

しばらく窓の外を見ていると、幸いなことに家の近くだということに気づく。言うなら今しかない。

「八雲さん、この辺りで降ろしていただければ……」
　
この状況に耐えられなくなって、思わず敬語が出てしまう。ここからなら家までは、もう目と鼻の先。ひとりでも大丈夫だ。