強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
でも八雲さんは一向に車を止める気配を見せず、黙々と車を走らせている。

「あ、あの、八雲さん?」
 
私の声が聞こえていないのか、八雲さんは黙ったまま。横顔だから彼の表情がはっきり見えるわけではないけれど、機嫌が悪そう? 私なにか、彼の気に触ることでもしただろうか。
 
んー。特にこれと言って、思い当たらない。

八雲さんの態度で私が不機嫌になることがあっても、彼が怒ることなんて何もなかったと思うけど。男性と二人きりでいることなんて初めてで、どう扱っていいものやら。

この場合、私が謝っておくほうが得策? ほら、よく言うじゃない『先に謝った方が勝ち』って。機嫌が悪い理由はわからないけど、このまま降ろしてもらえないのも困るし。

「八雲さん、ごめんなさい」
 
謝ったのはいいものの、自分が悪いわけじゃないのに謝って腑に落ちない気持ちからか、また勝手にため息が出てしまう。

「それ」

「えぇ!? ど、どれ?」
 
ずっと口を開かなかった八雲さんから突然言葉が飛び出し、驚いて身体が大きく跳ねる。「それ」と言われて、周りをきょろきょろ見回した。


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