強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～
「わかりました。行ってまいります」
部長にペコリと頭を下げ、自分のデスクへと戻る。同じタイミングで千登世先輩もフロアに戻ってきて、私の席で足を止めた。

「机の上なんて片付けて、どうしたの？」
　
不思議そうな顔をする千登世先輩に、苦笑いしてみせた。

「ちょっと、副社長に呼ばれまして」

「はぁ？　なんで芳奈が副部長に呼ばれるのよ？」
　
そうですよね。そりゃ誰だって、同じ反応しますよね。
　
クリキホールディングスの副社長といえば、私たちがおいそれと会うことができない人。そんな人から直接呼ばれるなんて、通常なら絶対にありえない。
　
でも今は、その“通常”ではないことが起きているわけで。

「な、なんででしょうね。私にも何がなんだか……」

千登世先輩、ごめんなさい。芳奈は嘘をつきました……。

心の中で謝り大きなため息をつき、がっくり項垂れる。
　
でもこればかりは、いくらお世話になっている千登世先輩相手でも絶対に言えない。このことは、誰にも知られてはいけない。

ホント八雲さんたら、一体何を考えているのやら。こっちの身にもなってほしいものだ。
一応それらしくファイルにボールペンを持つと、渋々フロアをあとにした。


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