強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

おー怖い。あの受付嬢の女性は、八雲さんのことを狙っているのだろうか。というより、この会社の女性たちはみんな、若くして副社長になった八雲さんのことを我が物にしようと躍起になっているに違いない。
　
じゃあ芳奈、あなたは──。

突然どこからかそんな声が聞こえてきて、きょろきょろと辺りを見渡す。もちろんどこにも人の姿なんてなくて。

「そんなの、わかるわけないじゃない……」

吐息混じりに小さな声で答え副社長室の前に立つと、緊張をほぐすために深呼吸をひとつする。でも深呼吸なんかで緊張がほぐれるはずもなく、はぁとため息をこぼした。

最初の挨拶って、何がベスト？
　
そんなことを考えながら、副社長室のドアをノックする。すぐに「どうぞ」と返事が返ってきて、八雲さんの声に緊張がピークに達した。

「う、梅岡です。失礼します」
　
ここは会社、普段どおりに──。

そう思えば思うほど、緊張は高まってくる。ドキドキする胸を左手で押さえ右手でドアノブに手をかけた瞬間、まだ力も入れていないのにドアが勝手に開いた。