強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
「ほら芳奈ってバカだから、ぶっつけ本番じゃボロが出るだろう。だから土曜日に一日かけて、デートしながら恋人の特訓をする……というわけだ。芳奈に拒否権はない。俺を十日も待たせた責任は、これでチャラにしてやる」
 
八雲さんはどうだと言わんばかりのドヤ顔を見せると、私の顎に人差し指を当て顔をクイッと上げる。意地の悪い笑みを口元に浮かべる表情が小憎らしい。
 
前言撤回! 人のことをバカっていう人は、言った本人もバカなんだから! 私の勘違いなんかじゃなくって、やっぱりこの人は勝手気ままな俺様気質の偉そうな人だった。

八雲さんなんか嫌い! 嫌い嫌い、大嫌い!!
 
負けてたまるかと、ツンと澄まして目線だけそっぽを向く。そんな私の仕草に八雲さんは苦笑して、顔を近づけた。お互いの距離が更に縮まって、不本意ながら鼓動が速くなる。
 
うるさい、黙れ心臓!
 
なんて命令しても、一度速くなった心臓の鼓動はなかなか収まりを見せず。至近距離に八雲さんの整った顔があっては、どうすることもできない。

「もうわかりましたから、お願いです。離れてください」

「何がわかったんだ?」

「だから。恋人の特訓でも何でもしますから、さっさと離れてって言ってるんです!」


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