強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
それに『芳奈はそうやって笑ってるほうがいい』とも言っていた。だから今日は一日中、笑顔を絶やさぬように……そう思っている。

約束の時間まで五分を切ったとき、外から車の音が聞こえた。八雲さんが来たんだと外に駆け出すと、昨日も見た黒のセダンが停まっていた。中から八雲さんが顔を出し、私に向かって軽く手を振った。私もそれに応えるよう手を振り返す。

そんな恋人同士がするようなコミュニケーションが恥ずかしくて、ほんの少し目をそらした。

「八雲さん、いらっしゃい」

「悪い、待たせたか?」
 
相変わらずのイケメンっぷりを発揮して現れると、八雲さんはふわっと髪を掻き上げる。整髪料だろうか、爽やかなフルーティーな香りが鼻をかすめた。

「いえ、少し早いくらいですよ」

「そうか、なら良かった。今日のワンピース、ネックレスに合わせたのか? よく似合ってる」
 
八雲さんがふわりと腕を上げ、指先が鎖をそっとなぞる。胸元で揺れるダイヤに触れると、妖しげな視線を私に向けた。金縛りにあったように動けなくなった私の頬に、八雲さんが優しく触れる。


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