【完】葉月くんの素顔は甘くてズルい♡
“湊音”……と呼んだ飛鳥くんの声が、とても自然だ。
葉月と呼んでいる時は、どこか無理をしているように聞こえたから。
「湊音は子供の頃からなんだって出来て、誰にも負けなくて、なんだって一番だった。とびきりカッコよくて、俺の憧れで……」
思い出を辿るように語る飛鳥くんの瞳が、徐々に色を失くしていく。
「だから、湊音は……まるで存在してないみたいに扱われるような奴じゃないんだ……」
温度を失った瞳はやっぱり悲しそうに私には映る。
「じゃあ、どうして葉月くんは……」
どうして、本当の自分を隠してしまうのか。
葉月くんとの距離が以前よりも縮んだと思ったけれど、その秘密は解けないままだ。
「……本当の湊音を壊したのは、俺だから」
不意に苦しそうに吐き出された言葉。
聞いている私まで、胸が押し潰されそうになる。
何も言えず、声も忘れて、ただただ飛鳥くんを見つめていた。
「ごめん……俺、もう行くね」
今にも泣き出しそうな表情で、飛鳥くんが準備室を出ていった。
もしかしたら私は、一番触れちゃいけない葉月くんの秘密に触れようとしているのかもしれない。