【完】葉月くんの素顔は甘くてズルい♡


* * *


俺から少しも目を逸らそうとしない羽澤が、自分のことでもないのに、目の縁にめいっぱい涙を溜めて俺を見上げた。


いつもいつも、こいつは俺を見つける。


上手く隠したつもりでも、少しも見落としてはくれない。



「───出来ることも、出来ない方がいい時があるって、そんなのガキの頃は知らなかったんだ」



目の前で佇む羽澤はやっぱり泣きそうな顔をしていて、それでも静かに俺の声に耳を傾けていた。



「お前が双葉から聞いた通り、昔からなんだって出来たと思う。新しいことを知るのは面白くて、やればやるほど上達してくのが、ただ楽しかった」



羽澤の隣で、消えることのない記憶を辿る。



───“ 湊音はすごいわね。なんでもすぐ覚えるんだもの ”


───“ すげー!湊音って天才だ!”


───“ え?二年生の問題まで解いちゃったの?もー!また負けちゃったじゃない ”



両親が笑って、飛鳥がはしゃいで、双葉はちょっと悔しそうで。


ただそれだけでよくて、何も望んだつもりなんかなかった。


それでも、周りはそうさせてはくれなかった。

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