【完】葉月くんの素顔は甘くてズルい♡
「とっても綺麗に弾けるのにもったいないじゃない。それに、どうしてそんなにやりたくないの?緊張しちゃう?」
違う。
緊張するとか、そういうんじゃなかった。
ただ、この伴奏のために遊ぶ時間も削って、指が痛くなるまで練習してるクラスメイトがいる。
それを、俺が奪えるわけがない。
ましてや弾きたいと望んでもいないのに。
「葉月くんはなんでも出来ることが、出来ない方がいいと思ってるんじゃないかしら?」
「え……」
胸の内を言い当てられて声が零れた。
「出来ることをやらないのは、自分から逃げているのと同じだと先生は思うの」
俺と同じ目線に合わせて、先生が諭すように言った。
「もっと、出来る自分を褒めてあげて?俯いていたらもったいないわ」
先生の声はいつになく優しくて、壊れそうだった俺の心に寄り添ってくれた。
「綺麗な演奏は、誰かの心に届くものなのよ」
逃げることは嫌だった。
出来ることを出来ないフリするのも。
だから、先生のその言葉を信じて最後の伴奏だって引き受けた。