【完】葉月くんの素顔は甘くてズルい♡
音楽会には教育委員長と呼ばれる偉い人が鑑賞に来ていて、先生はその日の朝からずっと硬い表情のままだったと思う。
「小学生でここまで弾ける子はなかなかいないよ」
伴奏を終えて、無性に先生の顔が見たくなって、大人が集まっている場所まで駆け寄った。
「あの子はキミより上手いんじゃないか?生徒に負けないようにな」
ポンッと先生の肩を叩いた教育委員長の声は鋭くて、俺は怯みそうになった。
その人が立ち去ったあとも、先生の手は拳を作ったまま微かに震えているのが見える。
「……先生?」
俺に気づいた先生は冷めた瞳で俺を見下ろした。
「……本当に、なんでも出来てしまうのね、あなたは」
刺すように、無気力な瞳が俺に降りてきた。
「───あなたは、まるでつくりものみたいね」
先生の冷たくて無機質な声は、先生じゃないみたいで。
自分の気持ちはみんなにも、先生の心にさえも届かなかった。
その時、何かが壊れそうな音が聞こえた。