【完】葉月くんの素顔は甘くてズルい♡
「及川が熱を出してしまってな……この度の劇の主役は、出来ないそうだ」
教卓の前に立った馬面が肩を落とした。
「朝から及川の様子がおかしかったみたいでな。さっき葉月が保健室に連れてってくれたあと、俺に知らせてくれたんだよ」
及川くんを連れ去ったのはそういう理由だったのだと理解したみんなは、俯いた様子で肩を縮めた。
「俺……気づかなかった。さっきまで、及川と話してたのに……」
「わたしも……リハの時も全然そんな素振り見せなかったから……」
及川くんもきっとこの役をやり遂げたかったんだと思う。
「どうしよう……及川くんは主役なのに……」
「代役立てるしかないけど、誰も台詞なんて覚えてないよね?」
「て……手分けしてやるとか!?」
「無理だろそんなの。各自、配役だってもう決まってんだ……それに、あれだけの台詞なんか……」
確かに、及川くんは主役だけあって誰よりも出番も台詞もある。
みんなそれぞれ役があって、代役を今さら立てるわけにはいかない……。
みんなは徐々に口を閉ざして、誰もが諦めかけたその時。
「俺でよければやるよ?」
重苦しい空気に包まれた教室に、その声は舞い込んできた。