【完】葉月くんの素顔は甘くてズルい♡
「もし噂通り羽澤が彼女だったら、こういう時なんて言ってくれんの?」
「へ!?」
こういう時……?
えーと、これから葉月くんが主役として舞台へと上がっていくわけで……。
あっ……。
「い、いってらしゃい葉月くん!」
頑張ってね、と付け足そうとしたのだけど。
「それ、もうこれっきり?」
「え?」
「だってこういうのいいと思わない?」
「こういうの?」
いってきますといってらしゃい……?
葉月くんの言ってることがよくわからなくて、首を傾げる。
「付き合って同棲してるみたい」
「なっ!?」
「だからこの先も聞きたいってことだよ?」
「この先って……っ、えと、それは仮に数年後の話だったとして……」
しどろもどろになりながら精一杯口を動かしていると、葉月くんはイタズラっぽく笑った。
「いってきます」
舞台へと向かって葉月くんが歩き出す。
本当に、最後の最後までしっかりからかってくるんだから……っ。
なんて心の中で悪態つきながらも、自然と頬が緩んだ。
そして私は、猫背じゃない葉月くんの誇らしげなその背中を見送ったのだった。