たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
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ようやく最後の商談先との打ち合わせが終わり車に乗り込むと、午後七時を回っていた。

思ったよりも早く話が済んだおかげで思っていたよりも早く社に戻れそうだ。

ビルの地下駐車場に向かう道に入っていく。

ふと、あいつがいるような気がして視線を向けるがいるはずもない。

自嘲気味に笑うと軽くため息をついた。

とりあえず、すぐに社長室に戻り商談に使った資料をデスクにしまい、メールのチェックだけ済ませ帰ることにする。

車に乗り込むと、庄司が「このままご自宅にお送りしてよろしいでしょうか」と尋ねた。

「ああ」

「かしこまりました」

車はゆっくりと動き出し、ビルの外に出る。

腕時計に目をやるとまだ午後八時を過ぎたところだった。

「まだ早いな」

早いという基準は様々だと思うが、俺にとっては午後八時は早い方だ。

疲れをとるためにこのまま帰るのもありだが、ふと日本で日本の酒を飲みたいというような気持ちになる。一杯くらいなら、さほど時間もとらないだろう。

「庄司、やはり気が変わった。悪いが【Your Bar】に少しだけ顔を出すよ」

「はい、承知しました」

一旦右折しかかった車は急いで左折に切り替え、大通りに入った。

あのバーで最後に飲んだ日、都を性の悪そうな男から助けてやって俺のマンションに連れて帰ったんだったな。

そんなあいつとの出会いが、もう随分前のことのように思えた。
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