たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
坂東さんは口を尖らせて正面から私の方に顔を近づけてきた。

「あと、その自称社員だって言ってた山川氏のことは裏で調べてみるわ。本当に社員だったのかどうかも怪しいわよ。名刺なんていくらでも作れるんだからさ」

「ああ、そうですね。でも結局未遂に終わってるし、彼らのことはもうどうでもいいです。きれいさっぱり忘れればいいだけの話ですから」

「はぁ。あんたって人は~。自分の生命を脅かされた相手よりも仕事優先なのねぇ。素敵な彼氏でも作れば、少しはバランスとれるかもしれないけど」

「ほっといて下さい。彼氏なんか必要ないですから。私、男って存在には全く興味ないんで」

その時、「ヘッ、キュション!」と会議室から出てきた川西さんが山根編集長の後ろで大きなくしゃみをした。

「おはよう、都」

席に戻った山根さんが、急に私に顔を向けたので思わず立ち上がってしまう。

「今朝は病院立ち寄りだったけど大丈夫なの?」

じっと静かにこちらを伺っている坂東さんの視線が気になりながらも「ええ、大丈夫です」と笑った。

「で、昨日は一日中錦小路社長についてリサーチかけてくれてたみたいだけど、何か収穫はあった?」

山根さんは由美から受け取った原稿に目を通しながら尋ねる。

「ああ、まだこれといったことは……松下さんからN町の隠れ家的バーが社長の行きつけだと聞いたのでしばらく張ってみようと思います」

「そう。一人で大丈夫?」

ドキッ!

編集長はいつだって私の少しの変化も見抜いてくるので侮れないんだよね。

「とりあえずは一人でがんばってみます」

「そうね。無茶だけはしないで。一人で心配な時は誰かつけるから」

「……はい」

私は小さく答え、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

前で声を殺して笑っている坂東さんを軽く睨む。
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