たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
一瞬足を止めたけれど、こちらを振り返りもせず再び歩き出す。

この革靴の主は、間違いない。私が聞いていた情報通りの男性だ。

昨日今日と命を張って会いたいと思っていた錦小路社長に間違いない。

ここで逃がしたら、もう二度と会えないような気がした。

「待って下さい!!」

私は素早く彼の前に回り、彼の行く手を阻む。

行く手を阻まれた彼は明らかに不機嫌な表情で私を見下ろす。

「昨日、私を助けて下さったのはあなたですね?錦小路社長」

彼は何も言わず、私から目を逸らし軽くため息をついた。

くー。

どんなけ偉いお人なのかはわからないけれど、私がどんな思いであなたに会いたかったかわかる?

危機管理なんて考えてたら会えないでしょう?それはあなたがそういう人間だからよ!

叫びたくなる自分をぐっと抑え込み、なるべく気持ちを落ち着けて彼に言った。

「私はGO!GO!出版で編集部の藤 都と申します。こんな形でお話するのは大変恐縮と思いつつ、まずは昨晩のお礼を言わせて下さい。私をあの二人から助けホテルまで手配して下さりありがとうございました。そして、今もあの男性から助けて下さって本当にありがとうございます」

彼は私の顔を見ず腕を組んだまま微動だにしない。

本当に手ごわい相手だというのは紛れもない事実だ。

軽く深呼吸をして続ける。

「私は、なんとしてもあなたにお会いしたくてこちらのバーに通っていました。どうしてお会いしたかったというと、私たちの編集している雑誌【JOB♡JHOSHI!】の次号の企画に是非とも社長のこれまでの生き様や仕事にかける熱意、そしてとりわけ女性スタッフへのメッセージを届けて頂きたい……」

「悪いが俺も忙しいので、これで失礼する」

最後まで聞き終わらないうちに彼は顔の前に右手を立てると再び歩き出そうとした。
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