俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
 その少し乱暴な指先から、優しさが伝わってきて胸がつまる。

 こうやって、さりげなく私をフォローしてくれるなんて。
 本当に貴士さんは人たらしだ。

 私はドキドキうるさい心臓を、深呼吸をしてなだめた。



 




 その日の午前中、私は自室の和机の前で正座をしていた。


 天然の玄昌石の形を生かしたしっとりと黒く美しい雄勝硯に、少しだけ水滴を落とす。
 手に持った墨を磨ると、水滴と墨がゆっくりと混ざり合っていく。

 それまでさらさらと透明だった水面に七色の光沢が広がり、墨の香りがふっと立つ。
 その瞬間が、たまらなく好きだ。

 出来上がった黒く光る海に筆を落とし、白い半紙に向かい合う。
 呼吸を整え、過去の有名書家が残した古典を手本に臨書していく。

 師範代の免許を取得して七年。
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