俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
臆病な猫の手懐け方――貴士side



臆病な猫の手懐け方――貴士side







 四歳年下の綾花は、なかなか懐かない臆病な猫のようだった。

 中学時代、姉の渚沙の勉強を見てやってくれと頼まれていた俺が葛西家を訪問すると、二階からパタパタと慌てたような足音と扉が閉まる音がした。

 その音の主は、当時小学五年生だった綾花だ。
 綾花は俺の顔を見たくないのか、俺がやってくるといつも慌てて自室に閉じこもる。

『あら、貴士くんいらっしゃい。今日も渚沙をビシバシしごいてやってね』
『お母さん。余計なこと言わないでよ。ただでさえ貴士は鬼なんだから』
『俺がしごかないとお前が真面目にやらないからだろ』

 玄関ホールで俺を出迎えた渚沙とその母と三人で話していると、上からかすかに扉が開く気配がした。

 自室に隠れた綾花が、開いた扉の隙間からこっそりこちらをうかがっているのがわかる。
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