桜のうつろふ前に月に向かひて
ふわりと桜が舞う。
僕は、桜の花びらが舞う道を一人で歩いていた。もう生きるのもどうでもいい。
僕の胸には、ぽっかりと穴が空いていて、それを埋めるには死ぬしかないんだ。
私のケイタイに、桜の花びらが乗って、小説を書いていた手を止めて、桜を見上げた。
「……もう春かぁ。早いな……」
私は咲き始めた桜を見つめ、呟いて再び小説を書き始める。
僕が名前を呼ぶと、薄いピンクの髪の小さな女の子が、僕の前に現れる。
「また来たよ。ブロッサム」
「月夜(つきや)、また来たのですね」
太い木の幹に、ちょこんと座る姿が可愛らしい。
「何をしているんです?」
「小説を書いてるの。大切な人を失った男の子が、桜の妖精に会う話」
上から声をかけられて、私はそう答えながら上を見上げた。ふわふわと、薄いピンクの髪の小さな女の子が浮いている。
「……君は?」
「私は、ブロッサム。あなたの書いていた小説の中に出てくる桜の妖精です」
にこりとブロッサムは笑った。……え?
「初めてまして!私も分かりませんが、外に出てきてしまいました!」
私は、その言葉に驚きを隠せない。
「……分からないと言うのは、嘘です。私の設定を思い出してください」
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