桜のうつろふ前に月に向かひて
ブロッサムの言葉に、私は「……そう言うことか……」と呟いた。

ブロッサムは、大切な誰かを亡くした人の前だけに……または誰にも話せない悩みを持つ人の現れる桜の妖精。

「……それで、何を悩んでいるのですか?」

ブロッサムの声を聞いていると、心が落ち着いていくような気がする。

「……さまざまの事おもひ出す桜かな」

松尾芭蕉が詠んだ句の1つを、私は口に出しながら桜を見上げた。

この句は、桜を見ると桜に対する思いや昔の事を思い出してしまう、みたいな意味がある。

「……私には、一人の親友がいたんだ」

桜を見ながら、私は口を開く。

「だけど、親友を事故で亡くした。春の日にね……だからかな。桜を見ると、嫌でも思い出してしまうんだ……でも、それ以上に楽しかったことや幸せだったことを思い出してしまう」

だから、余計に切なくなってくるんだ。でも、桜を見る度に、彼女が隣にいてくれてる気がして、心が軽くなるんだよね。……不思議だ。

「でも、桜はすぐに散っていくんだよね……久方の光のどげき春の日にしづ心なく花の散るらむ」

私は、紀友則が詠んだ句を口に出す。

この句は、日の光が穏やかな春の日に、どうして落ち着いた心もなく桜の花は散ってしまうのだろう、という意味がある。
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