ByeBye
正直、昔付き合ってた元カレとかのほうがずっと楽だった。
だってあたしは、彼とまともに会話をしたことがないし目を合わせたこともない。
だけど樹にとってあたしは彼に恨まれてもおかしくない存在。
そんな相手と同じ高校なんてどんな偶然だよ、って思った。
…でも。
「…俺、別にあんたのことなんとも思ってないよ」
先にこの沈黙を破ったのは樹だった。戸惑うあたしに放たれた言葉。
「…え、」
「あいつはもう"俺"の父親じゃないから頼りたくなかっただけ。…別にあんたに何も思ってないから」
樹は、あたしのことを和臣さんの娘とか関係なしに、"あたし"として受け入れてくれた。
彼は、怒りや憎しみに左右されない、一言でいうと本当に良い男だった。
そんな樹だったから、兄弟だの離婚だの再婚だのそんなの気にしないで"水原 樹"を知りたいと思えたんだ。
柚生には後からあたしと彼の関係を説明したが、「ふーん」とだけ言って特に深く聞くことはなかった。