ByeBye
もう1度ゆっくり深呼吸をしてから、インターフォンを鳴らす。
「───はい」
機械の向こうから彼の声が聞こえる。
「…っ樹…」
「…は、有那?なんで……、今開ける」
私だとわかると、樹は焦ったような動揺したような、そんな声に変わった。そしてすぐに玄関のドアが開いて、彼が顔を出した。
相変わらず、端整な顔立ち。
「…何しに来たの?俺、連絡なんてしてないけど」
さっきまでの焦ったような声なんて、まるでなかったかのように、冷たく彼は言い放つ。ぎゅうっと心臓が掴まれたような感覚になる。
今の私に、そんな偽りの冷たさは通用しない。
「…話がしたいの」
「…は、」
「樹と、話がしたい」
樹の目をしっかり見てそう告げる。
私の言葉に彼は少し眉をひそめると、一つため息を吐いて、「…俺は話すことなんてない、」と静かに言った。
「…俺、忙しいんだけど。…帰っ、」
「っ全部、きいたよ!」
"帰って"
そう言われる前に、私は樹の言葉を遮った。ドアを閉めようとしていた彼の動きが止まる。