ByeBye
「…ありがとう」
気づいたらもう家の前についていて、私は軽くお礼を言って玄関のドアに手をかけた。名残惜しいけれど仕方ない。次はいつ会えるだろうか。
…なんて、そんなことを考えていた時。
「有那」
中に入ろうとしていた私を大好きな声が呼び止める。
何か言い忘れたことでもあるのだろうか。声のする方へ振り向くと、樹はドアのほうまで寄ってきた。
「…うん?どうかし────」
──刹那。
私の唇に伝わったのは、感じたことのない柔らかな感触だった。
思考が、止まる。瞬きをする余裕もなかった。
今伝わるこの熱は。優しく重なった、それは。
─────触れているのは、紛れもなく彼の唇だった。