ByeBye
「まあ、樹は確かにかっこいいけど。知り合いだと別にドキドキしないっていうか。…ね?有那」
「……樹、」
「有那?きいてる?」
彩羽の声は右から左へ抜けていく。一か月前にあった時は、彼女も好きな人もいないって言っていたはずなのに。連絡がなかったのは、彼女ができたからだったのだろうか。
「どうかしたの?」
「っあ、…ごめん、なんでもない」
彩羽が不安そうに私の顔をのぞき込む。明らかに動揺してしまったから無理もない。なんでもないといったものの、彩羽はまるでその言葉を信用していないみたいだ。
「クレープ、多かったかもね!今日はもう帰ろっか」
中学からの付き合いというだけあって、こういうとき彩羽は深く探ろうとはせず、「帰ろう」と言ってくれる。…まあ、後日説明は強いられるけど。
「そうする……ごめんね、」
樹の姿を見てから痛む胸。喉の奥がつんと張って痛い。
…彩羽には、もう少し時間がたってからちゃんと言おう。今の私には、彩羽の優しさに甘えることが精一杯できることだった。