ByeBye
私たちとの間には距離があったため、樹がこちらを振り返ることはなかったけれど、スーツ姿の彼の隣には、小柄で綺麗な女の人の姿が見えた。
肩も胸元も開いた服を着て、樹の腕に擦り寄って歩く女の人。樹は、それを嫌がるわけでもなく、絡められた腕を避けるわけでもなく歩いている。
どうして、彼がここに────…?
追いつかない頭で必死に考えていると、ふと、この間彩羽と話した内容がよみがえってきた。
―――「…こないだ、有那に似てる子と繁華街歩いてるの見かけたの。そのままクラブみたいなところに入って行ったんだけど」
―――「…でも、なんか樹、高級そうなスーツ着てて。…もし有那だったらどういう関係なのかなって…思って」
繁華街、クラブ、高級そうなスーツ。
私の視界に映っている彼は、私が知っている彼ではないのかもしれない。
これ以上踏み込んではいけないのだと、心のどこかで感じている私がいる。
「…違う、」
「…え…?」
「…あの女の人、この間見た人じゃない……」