ByeBye
彼の後ろ姿を見つめていた彩羽が、動揺したようにつぶやく。そんな私たちに追い打ちをかけるように、様子を見ていた岩井くんが言った。
「あのホスト、知り合いなの?」
岩井くんの声が、耳に響く。
「ホ、スト……?」
「ここらへん、夜になるとそういうので栄えてくるし。それにあの女の感じ…多分客だと思うけど」
淡々と話す岩井くんは、樹たちの後ろ姿を見ながら「はあ…」と軽くため息をついた。彼の姿を見たくなんてないのに、何かに取り憑かれたようにその場から動かない足。うまく呼吸ができない。
「それにあのホスト、時々うわさで聞くよ。ホストって意外とかっこよくないみたいな話聞くけど、あの男だけは断トツでかっこいいから」
「…そのホスト、あたしと有那の同級生なの」
「うわ、そうなんだ。なんだっけ、確か『ラプラス』って店にいると思う。友達から聞いたことある」
目頭が熱くなる。ツー…と、温かいものが頬を伝った。
…私は、泣いているのだろうか。
彩羽と岩井くんの声なんて、全くと言っていいほど入ってこない。私はただ、夜の街に埋もれていく樹の後ろ姿を見つめることしかできなかった。
そんな私を、春川くんだけが何も言わず眺めていたことは知る由もなかった。