ByeBye



「…俺は、汚いから」



ぽつり、呟くように言った、それ。




「誰も知らないはずだった。…俺がこんなことしてるって」




ツー…と生暖かい水滴が頬を伝う。言葉はもう出てこなかった。




「…なのになんで、」

「…っ、」

「…なんで有那が知ってんだよ、」





彼は、弱々しい声でそう言った。




「…忘れてって言ったのは俺なのに」

「…え?」


樹が何か言ったような気がしたけど、そんな疑問は次に放たれた彼の言葉によってかき消された。




「…会いたくなかった。有那にだけは…知られたくなかった」



たったそれだけの言葉に、私の中で抑えていた何かが途切れ、大粒の涙が零れ落ちる。拭っても拭っても、それは止まることを知らなかった。



「…泣くの、やめて。そういうの、うざい」



優しかった樹からは想像もできない言葉。涙が落ちないように、零れないように。そんな思いとは裏腹に溢れる涙を必死に拭う。


< 60 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop