ByeBye


『…俺は、汚いから』

『…"綺麗"な有那にはわかんないよ』




脳内で繰り返される樹の声。



"汚い"?"綺麗"?



親友に縋って、あの時樹と寝たのは私の意思だった。忘れようと頑張ったなんて全部逃げるための口実だった。本気で忘れようとしなかったのも、私の意思。

もう自分じゃ救いようのないくらい、私は樹に溺れている。



私の方がずっとずっと────ずるくて、汚い。




「まあ冗談だけ──…」

「…わかった、」




冗談だけど。

そう言おうとした樹の言葉を遮って私は言った。


「……は、」

「…いいよ。…相手になる」

「有那、何言って」

「──…そしたら、また会えるんでしょ?」







ああ、本当。私はどうしようもない馬鹿だ。



樹に抱かれたら、さっきまで一緒にいた女の子のようになるのかな。
樹にも、"どうしようもない馬鹿な女"って思われるんだろうな。


だけどなんか、もう。それでもいいや。好きで好きで仕方ない人に会えるなら、条件なんてもうなんだっていいや。





──私はもう、とっくに彼からは抜け出せなかったんだから。

< 62 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop