ByeBye




深呼吸をして、扉に手をかけたとき。




「───有那」






そんな声が聞こえ、私は反射的に振り向いた。


そこには、高級感のあるシルバーのスーツに身を包み、ワックスでセットされた髪の、私の知らない樹がいた樹の姿を認識した途端、心臓は心拍数があがりはじめる。

…本当、私の身体はどういう仕組みになっているんだろうか。





「…本当に来ると思わなかった」

「っ、来るよ!…約束したから、」




私はヒールを履いてきたのに、それでも彼と話すときはどうしても目線が高くなる。私が小さいのか、はたまた樹が大きいのか。
軽く20cmは離れているだろう身長差を感じ、それだけで心臓が潰れそうなくらいドキドキしてしまう。



「…は、入らないの?」



依然として表情を変えず動かない彼に、私は彼の顔を覗き込むように問いかけた。私の言葉に一瞬ピクっと肩を揺らすと、彼は「…入るけど」とだけ言って、私の手を取って扉を開けた。

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