ByeBye





あたしと樹が会ったのは、それが初めてだった。


驚くほど綺麗な顔立ちは、どこか和臣さんに似ていた。けれど彼の瞳は真っ黒で、自分のことばっかり考えて簡単に彼らを手離した和臣さんの瞳とは違う。


この世になんにも求めてないような、全部諦めてしまったような、そんな色。



彼はあたしたちなんか見向きもせず、ただぎゅうっと恵さんの手を握りしめていた。




医師に話を聞いたところ、恵さんには腫瘍があったらしい。




恵さんは、樹を不自由なく育てるために仕事をたくさん増やしていたらしく、樹が家にいる時間帯は、母親の仕事を全うして、それから深夜はコンビニのバイトにいっていたそうだ。



朝、また何事も無かったかのように樹とおはようを交わして、また仕事に行く。



そんな生活を3年も続けていた彼女は、もうとっくに限界を超えていたのだと思う。

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