無気力な高瀬くんの本気の愛が重すぎる。

「手、離して……」

「やだ」

やだって、なんで。

「帰るんでしょ? 危ないから送るよ」

「え、わたし電車だよ?」

「知ってる。でも送る。俺がたまちゃんと一緒にいたいから」

「なっ……!」

なに言ってるの。

高瀬の思わせぶりな発言に振り回されてばかり。

ねぇ、わざと?

「ちょっとコンビニ寄っていい?」

「……うん」

送って行くと言って聞かない高瀬は、わたしの手を引きながらコンビニに入った。

店内にお客さんはまばら。

まっすぐ飲み物の冷蔵棚の前までいき、そこで足を止めた。

細くてきれいな高瀬の指先が、宙をさまよいながらカロリー補給用の飲むゼリーをつかむ。

「これさ、めっちゃ好きなんだよね」

そっとパッケージを覗くと、スポーツ選手がCMしてる栄養成分がたっぷり入った液状タイプの飲むゼリー。

「熱中症で倒れたときにハマったの」

熱中症……?

「誰かさんにね、追い抜かれたせいでムキになって追い抜き返したら、倒れたんだよ」

追い抜かれたせいで追い抜き返した……。

そう言われてふと記憶が蘇る。

「でもそのあと誰かさんがスポドリや飲むゼリーを大量に差し入れしてくれたときは、嬉しかったなぁ」

「そういえば、あったね」

そんなことも。懐かしいなぁ。

「俺ね、多分──」

クスッと笑いながらわたしの耳元に唇を寄せて、艶っぽく微笑むその横顔。

「そのときからすっげーハマってる」

こんな高瀬を、わたしは知らない。

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