無気力な高瀬くんの本気の愛が重すぎる。
「ギュッてしていい?」
腰に手が回されて、数センチ動いただけでも高瀬の胸に背中がつきそう。
エスカレーターに乗ってわたしの方が一段高いはずなのに、顔の位置は同じか高瀬の方が少し高いくらい。
だからなのか、真正面から目が合ってものすごくドキドキする。
「や、やめ、高瀬」
腰に回った手をつかむと、指をギュッと絡め取られてあっという間に飲み込まれてしまった。
ドキンドキン。
心臓の音、高瀬に聞こえてないよね。
体の火照りを冷ますように、手でパタパタと顔を仰ぐ。
「なんだ、もう着いちゃったのか」
ホームについて一安心。
名残惜しそうに高瀬の体が離れた。
よ、よかった、とりあえず。
初っ端からこんな調子だと先が思いやられるけど、今日はふたりきりってわけじゃないから助かった。
「環〜! おはよう!」
エスカレーター付近に立っていた穂波がわたしに気づいて声をかけてきた。
隣では西河が爽やかな微笑みを浮かべている。
「穂波、おはよう。西河も」
「おう」
「高瀬くんもおはよう。今日はよろしくね」
「あ、どーも」
なぜか高瀬は表情を強張らせた。
律儀にお辞儀までしてわたしの前とは大ちがい。