無気力な高瀬くんの本気の愛が重すぎる。
あまりにものんきな高瀬に言葉が出てこない。
「入らないの?」
わたしが挨拶を返さないのもお構いなしに、そんなことを聞いてくる。
誰のせいで入るのをためらってたと思ってるのよ。
「行こ、美保」
美保の腕をグイグイ引っ張って、高瀬から離れた。
でも授業が始まると嫌でも後ろ姿が目に飛び込んでくる。
高瀬の後ろの席だなんて最悪だ。
数学の先生がいきなり今日になって小テストをするとか言い出したもんだから、それもついてない。
予習なんてまったくやってないし、応用問題ばっかりで難しすぎるんですけど。
「カン、ちゃん?」
小テストを前の席の人と交換して答え合わせをする時間、高瀬が疑問符をつけながら口走った。
「カンって、かわいい名前だね」
思わず手に力が入ってシャーペンの芯がポキッと折れた。
「た、ま、き、ですけど」
『かん』と読めなくもないけど、どう考えても『たまき』でしょ。
仮にも学年トップなら、それくらいわかって当然なのに……。
「あ、やっとこっち見た」
甘いマスクを貼りつけてにっこり笑う高瀬には壁がないというか、こっちがバリアを張ったってヒョイと簡単に乗り越えてくる。
「知ってるよ、たまちゃん」
「は?」
待て待て。
「どうしたらたまちゃんが顔を上げてくれるかなって、ずっと考えてたんだ。もしかして、昨日のこと怒ってる?」