無気力な高瀬くんの本気の愛が重すぎる。

もう忘れよう。高瀬もこんなだし、なかったことにするのが一番いい。

高瀬への持って行き場のない怒りに折り合いをつけたとき、タイミングよくチャイムが鳴った。

瞬間、風に乗ってシトラスの匂いが漂ってきた。

ドキン。

やだ、なに思い出してんの。

高瀬の唇の感触が蘇って、パッと顔をうつむかせる。

バカみたい。ありえない。

頭を振って邪念を消し去る。

それからは高瀬を視界に入れないようにして、ひたすら授業に集中した。

「環〜、お昼行こう〜!」

「うん」

美保と一緒に教室を出て食堂へ。昼休みの廊下はたくさんの人で賑わっている。

「そういや、いつの間に高瀬くんと仲良くなったの〜?」

からかうように笑う美保に、身振り手振りで否定する。

「やめてよ、そんなんじゃないから」

「ふ〜ん。高瀬くんって、人懐っこくてかわいいよね。顔もそこらのアイドルよか全然整ってるし。狙っちゃおっかな〜! なんて!」

「やめときなよ、ロクなヤツじゃないって」

かわいい顔して遊んでる、絶対に。

危険だよ、危険。

「それに美保には彼氏がいるじゃん」

「えへへ、まぁねぇ。でも高瀬くんになら、遊ばれてもいい!」

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