後輩くんはワンコ時々オオカミ
side 涼太
「脱線させてごめんね?」
そう言うとソファの上に投げた洗濯物を抱えて寝室へと入った眞子先輩
・・・・・・・・・っ!
クーーーーーーーーーっっ!
なんて可愛いんだ!眞子先輩っ
包丁を持ったまま眞子先輩の消えた扉を凝視するけれど
中の様子なんて見えるはずもなくて
諦めてネギを切ることにした
お昼休みに迎えに行った時の
眞子先輩の顔は頭痛もあってか悲しそうに歪んで見えた
たぶん・・・原因は・・・心無い声
ここ数日で、俺と眞子先輩が付き合っているとの噂は瞬く間に拡散していて
その所為できっと眞子先輩は体調を崩した
眞子先輩を狙っていた奴らからの強い視線も噂話も
男の俺は聞き流せる
でも・・・
眞子先輩には無理だと思う
案の定、お弁当の中から小さなおにぎりだけを食べると鎮痛剤を飲んで眠ってしまった眞子先輩は
休み時間ごとに様子を見に行っても身動ぎひとつすることなく
放課後に声を掛けるまで目を覚ますことはなかった
・・・俺の所為、だよな
胸が苦しいけど
眞子先輩との付き合いはやめたくない
みんなに祝福して欲しいなんて望まないから
できるだけ放っておいてほしい
そんなことを考えながら
グツグツと煮えてきたお鍋を見ていると
「良い匂い」
やっと眞子先輩が戻ってきた
「もう出来ますよ」
カウンターの中から声を掛ければ
「じゃあ、セッティングするね」
ランチョンマットを二枚
カウンターに並べて置いた
白いマットの上に
並べられる可愛い滴型の箸置きも
薄い水色のガラスコップも
俺と眞子先輩だけのって考えるだけで
頬が緩みそうになる
・・・ダメだ
眞子先輩と一緒に居るだけで
俺はダラシのない男になってしまう
眞子先輩とつりあうようにって
頑張ってきたのに
眞子先輩を前にすると
全身の力が抜けたみたいに自然体になる
これって良い傾向だよな?
眞子先輩だって
そうであって欲しい
どんどん欲張りになる気持ちを
確認したところで
「眞子先輩、完成です」
丼をランチョンマットに置いた
「美味しそ〜」
向こう側で丼に顔を近づけて
フワリと笑った眞子先輩
その笑顔だけで
お腹いっぱいになった
side out