響のツバサ
夜になり、軽く食事を済ませ、ベッドに入る。

「...。」

眠れない。

仕方なく起き上がり、窓の外を見つめる。

小雨が降っている。

...。

見ていると心なしか寒くなってきた。

布団を春用に変えたからかな...。

なんで...。

これは数年に一度のこじらせだろうか。

それとも...。

「...ミヨリ。」

あの女に久しぶりに、会ったりしたからだろうか。

いつもろくなことなどないのだから。

お調子者で、少し病んでるけど、
明るくて、小柄の美少女で、慈悲深くて...。

「...なんでまたあいつのこと考えてんだろ。自分で決めたことなのに。」

...。

今さらだけど。

後悔してんだな...。

潔くはっきりついたと思ったのに。



鳥が羽ばたくような音がした。

「ヒビキ、寒いの?
私があたためてあげるね。」

ふわっと俺の身体を包んだのは、白くて柔らかい翼。

熱が伝わる。

悔しいけど、
あったかい。

「ヒビキ、
だいすき。」

...。

いや、
待て待て!

「というかどうやって入ってきたんだ。」

「タンスに合鍵あったの。」

...こいつやっぱり危険だな。

「ミヨリ、鍵を返しなさい。」

「むぅ...。」

「ミヨリ。」

「もうちょっとギュってしてからー!」

「はぁ...。
あのな...俺たちはもう。」

「寂しいこといわないで。
おねがい...。」

お願い...。

この言葉を咀嚼し切るまでにどれだけの手間と時間がかかったことか。

正直苦手な言葉のひとつだ。

「ミヨリ...。」

「もっと呼んで欲しいな...。
それでもっとわたしのこと、」

「いやだ、もういい。
もうたくさんだ。」

「え...。」

「俺は絶対にお前とよりは戻さない。」

「...どうして...?」

「お前がドジでマヌケで、おまけにバカだからだ。
さっさと鍵をおいてかえれよ。」

「...。」

翼は徐々に小さくなっていった。

そしてついには、彼女の翼は消えてなくなった。

俺は彼女をすり抜け、部屋を出ると、気分を落ち着かせるために台所で水を飲んだ。

そして、部屋に戻ると、
彼女は先ほどと同じ格好で俯いていた。

「...まだいたのか。」

「...。」

情に訴えかける作戦だろうか。

そういえばあのときもそうだった。

寂しそうに佇んでいた。

その、小さな肩が震えて...。

「おい、ミヨリ。」

「...ヒビキくん。」

ぎょっとする。

声も弱々しく震えていたからだ。

「ミヨリ、泣いてんのか。」

「わたし...ヒビキくんのことが
好きなだけなの...。」

そうかもしれないけど。

でも俺はここで折れるわけにはいかない。

「ヒビキくんはわたしのこと...、
一度も好きだって言ってくれなかった。」

鋭いものが胸に刺さるような感触がする。

喉になにか突っかかって、何もいえなかった。

「キスだってしてくれなかったし、抱きしめてくれたこともない...。」

...。

「あの日、突然わたしを...要らないって…。
遠くに行っちゃったの。」

...もうやめてくれ。

「ヒビキくんに捨てられちゃったわたしなんて、生きていたってしょうがないの。」

「そ...そんなことは...。」

磔にされたような声がやっと漏れ出した。

「ここに戻ってきたから、私のこと、構ってくれるかなっておもって...。
でも、無理だったみたい。

...仕方ないよね。」

彼女がそう呟いて、
ふいに
こちらに笑いかけた。

心臓が一度
ビクン
と跳ねあがった。

...。

もう...だめだ。
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