響のツバサ
「ごめんなさい、わたし、帰るね。

ばいばい。」

...。

ここで、このまま引き留めなかったら。

一生後悔する...。

でも...、かつて見限った彼女を幸せにできる自信なんて、俺には...。

...。

結局、扉はパタンと軽い音を立ててしまった。

何も、出来なかった...。

さっきひと刺しもふた刺しもされた胸から、ドクンドクンと熱い血が流れていくような、、

その苦しさから、

「...っ、」

うめき声が出そうになる。

とにかく、意識を絶って、夜明けを迎えなければ。

心が潰れてしまうだろう。

「ミヨリ...。」

本当は...、

彼女が
愛しくてたまらなかった。

遠くに離れていてもずっと、
俺はあいつのことを...。

、、
バタン!!

「ごめんっ!
鍵返すの忘れてたっ。
って...あれ、
ヒビキ、くん...?」

「........................。」

「ど、どうしたのっ?
胸、痛いの?」

「......み、より...。」

「え!?
ヒビキくん!?」

はじめてミヨリの身体を抱きしめた。

「ミヨリ...ごめん。
やっぱり俺はお前のことが...。」

バサっ。

「ご、ごめんなさいっ!
ドキドキしちゃって羽が...。」

...。

「...ほんと、お前...。」

「ふえぇ...ごめんね。」



「...ミヨリってあったかいよな。」

「え...?」

「...もう少しこうしててもいい?」

「いいけど、さっき言おうとしてたことちゃんと言って?」

「なんのこと?」

「あー、知らんぷりしてるー!
好きって言ってくれるところだったのにー!」

「別にそんなことじゃないかもしれないだろ。」

「ヒビキくんのいじわるっ!

また付き合うって...、
好きだって言って?

おねがい。」

また、
おねがい...。

「ミヨリ...。」

俺は彼女の目を見つめた。

彼女は次の言葉を待っている。

翼という毛皮に覆われた、小動物みたいな姿で。

「...。
やっぱ言わない。」

「えー、なんで!?」

「負けた気がするだろ。」

「ええ...。
でも、よりは戻してくれるよね?」

「このままだと、らちがあかないし、仕方がないから戻してやる。」

「むぅ...。
まあ、
今日のところはそれで勘弁しましょー。」

「そりゃあどーも。」

「ね、ね、
今日は一緒にお布団だよねっ?」

「風邪うつるぞ。」

「いいもんっ。」

「...羽は邪魔だからしまえ。」

「しまいたいけど、ドキドキすると出ちゃうものなの...。どうすればいい?」

俺は目の前で突然蚊を叩く動作をしてやった。

要するに猫騙しだ。

「き、消えた...よ。
ありがと...。」

「ああ。」

こうして、翼が生える少女との生活が、再びはじまったのであった。
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