死ぬのは溺愛のあとにして?【加筆終了1/1】
そんな絶望的な気分で、大都会の闇の中、一際大きなため息をついた私は――金里明日美(かなざと あすみ)29歳。
グレーのパンツスーツに身を包み、長い栗色の髪に緩やかなパーマ。
目鼻立ちがしっかりしてるわけでもなく、飛び抜けて可愛いわけでもない、どこにでもいる通常レベルの女子。
友達からは“お人好し”とか“騙されやすい”とか言われるけど、数年前に事故で両親を亡くした以外では、これまで人並みに不自由なく生活してきたと思う。
都内の有名私立高校に通うため、高校入学と同時に地方から上京し、卒業後はシーエムでもおなじみの大手医療機器メーカーの営業職に就いてきた。
でも、今思えば、この会社に就職したのが私の運の尽きだったのかもしれない。
いわゆる、就職した会社は『ブラック企業』と呼ばれるところで。
会社から理不尽な要求をされたり、否応なしに退職を迫られたり、無謀な業績や残業で苦しみ倒れていった人たちを、私は沢山見てきた。
幸いにも、私がいた営業部は、これまで大きなトラブルもなく、10年間会社のために尽くしてきたつもりなんだけど⋯⋯。
今日、予期せぬことがあった。
ふらりと近くにあったビルの中へ足を進めながら、
私は苦悩に追い込まれることになった、数時間前を思い返した。
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