エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
心電計を身体から取り外したところで、親しげに話しかけてきた。

「あなた、須皇先生の婚約者なんでしょう?」

ギクリとして身を強張らせる。まさか、昨日外来で広まった噂がもう入院棟のナースステーションまで届いたのだろうか。

私がびくびくしていることに気づいたのだろうか、彼女はふふふと笑う。

「弟から聞いたのよ。昨日、外来に出ていた医師が私の弟なの。覚えているかしら?」

そう言って、胸につけているネームプレートをこちらに向けた。

そこには『沢渡』と刻まれていて、同じ苗字に納得する。

「沢渡がふたりいて紛らわしいから、私のことはみんな美沙と呼ぶの。須皇先生も美沙って呼んでいたでしょう?」

なるほど、と頷く。いきなり女性を下の名前で呼び捨てにしたものだから、少し驚いていたのだけれど、そういう理由だったのか。

「沢渡先生にはお世話になりました」

私が服で前を隠しながらぺこりとお辞儀をすると、彼女は心電計のチューブを取り纏めながら、ため息を漏らした。

「ごめんね。弟が迷惑かけなかった? あの子、態度悪かったでしょう?」
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