エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
唐突に謝られ服を着る手が止まる。そこまで態度が悪いようにも見えなかったけれど、何か気がかりなことでもあるのだろうか。

「そんなことありませんでしたよ」

カットソーから頭を出して答えると、彼女は頬に手を添えてふう、とため息をついた。

「そう、よかった。あの子、須皇先生に少し劣等感を持っているから……」

「劣等感、ですか?」

「ええ。あまりに須皇先生が優秀だから、父から比べられてしまうのよ。あのくらい執刀できるようにならないと、跡は任せられないぞって」

私はキョトンと目を瞬かせる。沢渡先生のご実家も病院なのだろうか。

美沙さんが苦笑いを浮かべながら説明してくれる。

「うちの父は大学病院の教授なのよ。父は弟に教授の席を渡したいみたいなんだけれど、弟は臨床も研究もまだイマイチ芽が出なくて……。そもそも、須皇先生はアメリカでたくさん手術経験を積んできた人だし、弟はまだ二十九歳、研修を終えたばかりで、比べるほうが間違っているのだけれど……」

透佳くんが異例のエリートであるという噂は聞いている。ただでさえ沢渡先生は三つも年下なのに、そんな人と比べられてしまうなんて。

大学病院の教授の息子というのも、大変なんだなぁと気の毒に思った。

「だから、今はこの病院の外来で修行中なの。週一だけどね。残りは大学病院のほうで働いているのだけれど、父が結構な無茶を言うから、ストレスをため込んでいると思うわ……」
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